この事例の依頼主
50代 男性
相談前の状況
住宅ローンのほか、約1000万円の借金を抱えた会社員男性のご相談でした。自宅マンションを維持するため、破産は回避したいとのご希望でした。収入からすると、住宅ローンの返済を継続しつつ、その他の借金の5分の1にあたる約200万円を3年間で弁済していくことは可能と思われましたので、個人再生申立に適した事案と思われました。ただ、問題は、退職金見込額が900万円以上に上り、これを退職金についての通常の評価方法に従い、8分の1額で評価したとすると、他の債権額とあわせて約300万円となってしまうことでした。財産の清算価値が300万円なら300万円以上の弁済を要することとなってしまうからです。その場合、個人再生による解決自体が困難となりかねませんでした。
解決への流れ
依頼者に勤務先会社から退職金規程を出してもらい、確認したところ、「退職金」は、企業年金基金及び確定拠出年金の給付として制度設計されていることが分かりました。これらは、確定給付企業年金法及び確定拠出年金法により、差押えが禁止されています。とすれば、清算価値には含まれず、最低弁済額の計算には加えなくてよいことになります。そこで、個人再生申立書には、退職金額をゼロとして計上し、差押禁止財産にあたる旨主張しました。この点について担当裁判官から、質問の電話が架かってきましたが、電話での議論を踏まえ、上記の理解が正しい旨を退職金規程の文言に基づいて説明する上申書を提出したところ、裁判所の理解を得ることができ、再生計画の開始決定を得ることができました。その後、手続は順調に進行し、無事、再生計画の認可決定を得ました。
退職金見込額が900万円以上もある旨の報告を受けたときには、「これは個人再生は無理か」との思いが頭をよぎりました。しかし、差押禁止財産であることを把握できたことから当初想定した処理どおりの解決に至ることができました。うっかり差押禁止であることを見過ごしてしまえば、依頼者に対し、より多額の弁済を強い、場合によっては個人再生を諦めさせることになったかも知れないと思うと、債務整理においても弁護士が正しい知識に基づいて適切な処理をすることの重要性を改めて認識した事案でした。