犯罪・刑事事件の解決事例
#労災認定

大分県南沖の公共工事で潜水作業中の潜水士3名が死亡した労災事故で勝訴的和解を勝ち取った事案

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根岸 秀世 弁護士が解決
所属事務所大分共同法律事務所
所在地大分県 大分市

この事例の依頼主

年齢・性別 非公開

相談前の状況

【事案】大分県南の海で海底に沈めてあるシンカー(重り)に玉掛け作業を行っていた潜水士3名が、潜水作業中に死亡したもので、水深60m近い大深度で、鋼鉄製のワイヤロープが取り付けられている重量60kgのシャックルをシンカーに取り付けるという作業中に潜水士1名がエア切れを起こしてそれを救助しようとした他の2名ともども亡くなったという重大労災事故。

解決への流れ

【訴訟】本件は、潜水中の事故で作業していた潜水士が全員亡くなってしまったため目撃者がおらず、また、大深度での潜水作業という陸上からは想像困難な危険作業の実態を潜水経験のない裁判官にどう理解してもらうかが非常に難しかった事案です。立証のため、『潜水医学入門』、『潜水作業安全施工指針』、『潜水士テキスト』(潜水士試験受験用の教科書)などを買い込んで読破し、被告側の潜水作業の安全管理がいかにずさんだったかを論証しました。例えば、潜水者の一般的な空気消費量は、以下の式:空気消費量A(リットル/分)=タンク容量C(リットル)×(初期充填圧P1[kg/c㎥]-最終残圧P2[kg/c㎥])÷【(1+平均深度D[m]/10)×潜水時間T[分]】で導きますが、ここから逆に一般的な空気消費量を前提に潜水時間Tを求めるといった作業を積み重ねました。また、スキューバダイビングが趣味の他事務所の先生からも資料をお借りしたり、潜水士を紹介していただいて潜水作業についてお話を聞いたりといったことも行い、最終的には、裁判所が、過失相殺2割での和解案を出し、この被災者の過失を認めるという点についてはご遺族に異論もありましたが、最終的にご納得いただいて、損害額の8割での和解を成立させることができました。

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根岸 秀世 弁護士からのコメント

通常の労災事故では、被災者の方が亡くなった場合であっても、どのようにして事故が発生したかについては明らかなことが大半で、本件のように、事故が海底で起き、事故に到る被災者の動きが分からないという事案はまれです。労災では、事故の原因が被告(会社)側にあることは被災者側が証明しなければならず、この証明ができないと負けてしまいます。本件はこの点に最大の難しさがあった事案でした。本件は、プロの潜水士の方の協力が得られたなどの事情もあり、かろうじてその証明ができて、裁判所が実質原告勝訴の和解案(和解案の中で明確に被告に過失があることを指摘しており、このような和解案は非常に稀です。)を出して被告も受け入れたという事案です。交通事故と異なり、労災は、私たちが普通は経験しない場所で起こります。製鉄所や造船所など、その仕事に就いていなければ足を踏み入れることもないような場所で起こるため、その作業がいかに危険で、安全を確保するにはどのような対策が必要かを、裁判官に分かってもらうのは大変です。海底での労災事故という本件は、その一番極端なケースといっていいかもしれません。私自身も、海底での作業があっという間に酸素を使い尽くす恐ろしい作業であるということは、この事案を扱うまで知りませんでした。その意味で非常に勉強になった事案です。