犯罪・刑事事件の解決事例
#労災認定

大手通信会社A社の社員のBさんが上司によるパワハラでうつ病にり患したとして労災申請したところ認められなかったため,国を相手に裁判して労災が認められた事案

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根岸 秀世 弁護士が解決
所属事務所大分共同法律事務所
所在地大分県 大分市

この事例の依頼主

年齢・性別 非公開

相談前の状況

A社は当時変わった人事制度を持っていました。社員は誰でも50歳になったら,いったん退職して子会社にずっと低い給料で雇われるか,退職せずそのままの待遇でA社に残るが,全国転勤で厳しい職場に送られるか,どっちかを選べという「究極の選択」を従業員に迫っていたのです。そしてなんと,従業員の90%以上は賃金が大幅に下がるにも関わらず退職再雇用を選んでいました(そのまま残ったらどんなに厳しい職場に送られるか想像できますね。)。Bさんは,年老いた両親の介護費用や体の弱い奥さんのために,あえてそのままの待遇でA社に残るという超少数派の選択をしたのです。そうしたら,上司から呼び出されて退職再雇用を選ぶよう激しく責められ,体調を崩してうつ病にかかってしまったという事案です。Aさんは当然労災申請したのですが,労災は認められず,再審査請求も棄却されてしまい,国を相手に裁判するしか方法がない状況に追い込まれました。

解決への流れ

この事件は,私だけでなく,複数の事務所に所属する弁護士7名がチーム(弁護団)を組んで戦った事件で,私は主に医学的な問題に関する部分を担当しました。訴訟は3年以上掛かり,最終的に地裁で労災を認める判決が出て,国は控訴せずそのまま確定しました。

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根岸 秀世 弁護士からのコメント

パワハラによるうつ病発症が労災で否定されると,ひっくり返すのは大変です。この事件は,チームを組んだからやれた事件で,到底一人では戦いきれなかったと思います。精神障害の労災認定では,国(厚生労働省)が定めたマニュアルのようなものがあり,「精神障害の労災認定のしくみ」といったタイトルで冊子になっています。この認定基準では,パワハラや長時間労働などのストレスで精神障害を発症したというだけでは労災には認定されません。ストレスの強度が「強」と判断されるようなパワハラや一定程度を超えた長時間労働でないとそもそも労災認定のレールにすら乗らないのです。このストレス強度が「強」と判断されるようなパワハラというのは,退職強要や人格を否定されるような激しい嫌がらせ,いじめでないと該当しないとされています。また,Bさんはまじめで几帳面な性格だったことが逆に災いして,もともとストレスに弱い性格だった(ストレス脆弱性が高かった)とも判断されていました。Bさんの裁判では,パワハラした上司は国側の証人として裁判で「パワハラはなかった」と証言するなど,実質は,国+大手通信会社vsBさんと弁護士チームの戦いでした。この裁判では,私は主に,法律論よりもストレスと精神障害の関係についての医学文献を集めたり,それを基に準備書面を書くなど,医学的な問題を担当しました。また,Bさんの主治医の先生が書いてくださった詳細な意見書(計3通も書いていただきました)が勝訴の重要なカギとなりましたが,一般にドクターは大変多忙で,ただ意見書をお願いしますだけでは,専門的になり過ぎたり,裁判の争点と離れた問題が無駄に詳しく展開されていたりして,裁判官が読んでも理解できなかったり,裁判の証拠としてあまり価値のないものになってしまいがちです。そこで,同じ法律家である弁護士が,ともすれば医学論文になってしまいがちな意見書を,「裁判官が読んで分かる文書」,「裁判で勝つための証拠」になるようにサポートする必要があるのです。Bさんの事件では,私ともう一人の弁護士が中心になって,主治医の先生と意見書の方向性や打ち合わせをして,主治医の先生の意見書作成をサポートしました。この点よく誤解があるのですが,弁護士がドクターに「こっちに都合のいい意見書を書いてください」と頼めば自動販売機のように意見書が出てくると思っている依頼者の方がいますが,そういうものではありません。ドクターには専門家としての矜持があり,自分の診断と違う意見書を書く人はいません。弁護士にできるのは,専門医学的な「論文」を「その裁判で必要な証拠」に変える手助けです。この裁判は,最初に書いたように,チームで戦った裁判なので,解決事例に含めるにはちょっとためらいもありますが,たくさんのことが学べた事件として挙げないわけにはいかない事件です。