この事例の依頼主
40代 女性
依頼者の方は、40代の女性の方(Xさん)でした。夫(Yさん)は、都内で飲食店の個人事業主でした。Xさんは、Yさんの飲食店を夫婦で経営しており、日中は飲食店のお手伝いを続けていました。2人の間には娘が1人いましたが、既に成人しておりました。夫婦仲は、ずっと仲がよかったようですが、飲食店の売り上げが年々悪くなっていくにつれて、夫婦間の関係もぎくしゃくし始めたようです。売り上げの減少による経営悪化によるストレスからYさんは、家で愚痴をこぼす事が多くなり、それをXさんが指摘をすると、YさんはXさんに怒鳴り付け、悪口を繰り返す毎日が1年ほど続きました。あるときに、同じように口論をしていた際に、Yさんが激高のあまり手元にあったテレビのリモコンをXさんに投げつけ、それがXさんの頭にあたり出血するような事件が起きました。Yさんは、血を見てハッとなったのかすぐに謝って来たようですが、Xさんとしては、我慢の限界に達してしまい、離婚を決意しました。自宅を出て、都内に住む親戚の家に移り住み、別居生活を開始することになりました。Xさんは、親戚を通じて離婚の申し入れをしましたが、Yさんは、離婚をすることについては応じるものの、財産分与や慰謝料の話が出ると、お金を払うつもりはない、反対に慰謝料を払うのであれば離婚に応じるという話までされてしまい、話が前に全く進みませんでした。
上記の状態を打開するためにXさんが当職のところに無料法律相談にお越しくださいました。Xさんは、別居を始めてからYさんの飲食店の手伝いを辞めてしまったので、仕事もしておらず、蓄えも少ししかありませんでした。ですから、離婚をするにしても今後の生活をどうしたらよいのかという漠然とした不安があったようです。他方、Yさんは、飲食店の売上げが落ちてきたとはいえ、これまでに蓄えた財産はそれなりにあったようで、生活に困っているというわけでもありませんでした。これまでのXさんとYさんの話し合いの内容から、当職が相手と交渉しても解決は見込めないと判断し、すぐに離婚調停を起こすことにしました。離婚調停がスムーズに進むかわからなかったことと、Xさんが当面の生活費にも不安を抱えていたため、離婚調停を申立てるのと同時に、離婚成立までの生活費(婚姻費用)の支払いを求める調停も起こすことにしました。その後、東京家庭裁判所で調停が進みましたが、婚姻費用の調停は早い段階で決着し、生活費を受け取ることができました。しかし、離婚調停については、Xさんの離婚の意思が固いことから、Yさんも離婚自体は納得してきましたが、離婚条件についてなかなか折り合いがつきませんでした。Yさんが飲食店経営に蓄えた財産は、Xさんがお店を手伝ってきたおかげでもあることや、別居前のYさんのXさんに対する態度がひどいものであったこと、Xさんにはほとんど今後の蓄えがないことなどを当職から調停委員によく説明し理解してもらいました。そうしたところ、調停委員からYさんを説得してもらうことができました。最終的に、慰謝料や財産分与を含めた解決金として800万円をYさんから受け取り、5回目の調停で、離婚成立という形で解決することになりました。離婚調停の途中からXさんは以前手伝っていた飲食店のパートの仕事を見つけて新しい生活を始めて、飲食店の手伝いと家事で手一杯だった生活から解放されて、自分の趣味である旅行のサークルに参加するなど新しい人生を歩み締めました。
弁護士が取り扱う離婚事件においては、一方が離婚を望むのに、他方が離婚を拒み続けるというケースが多くあります。その中には、本当に相手方が離婚自体を避けたいと思い、なんとか円満な夫婦関係を取り戻したいと考えている場合もありますが、離婚に伴う慰謝料や財産分与の支払いを避けるために相手方が離婚を拒み続けているという場合もあります。実際に、離婚調停にまで発展した時点で、正常な夫婦関係を取り戻すのはほとんど難しいといってよく、お互いが離婚を前向きに考える場合が多いといえます。ただ、離婚をするには、離婚条件、すなわち、金銭などの条件に関して話し合いがこじれることが少なくありません。この事案では、Yさんの暴力が離婚のきっかけになっていますが、暴力自体はYさんも衝動的にやってしまったもので、すぐに謝るなどしていたため、これだけで離婚や慰謝料が認められるものではありませんでした。ただ、YさんのXさんに対する八つ当たり等の暴言などは執拗に続いていたようで、Xさんが受けた苦痛は相当なものであったようです。また、Yさんには飲食店の経営で蓄えた財産がそれなりにあり、その飲食店はXさんも手伝って発展したものであるので、財産分与の精算を強く主張しやすい事案であったといえます。調停が話合いの場ということもあり、最終的には、慰謝料がいくら、財産分与がいくらという細目について細かい決め方はせず、離婚における解決金ということで800万円を受け取り、離婚調停成立となりました。厳しく主張を貫き通せば、もう少し受け取る権利はあったようにも思いますが、Xさんも早い段階で解決したいと思っていたことと、Yさんの飲食店が好調とはいえなかったことから、お互いが納得できる条件として調停が成立し、円満に解決することができました。