この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
相談前の状況
外回りの営業職をしていた方が退職後に元勤務先に残業代請求をしたいという事案についてご依頼を受けました。会社側は,従業員に,月45時間以上の残業をしないように命じていました。そのため,依頼者様は,月45時間以上の残業の必要性があるときは,自らタイムカードを切った上で,その後も残業していました。また,この会社では,「営業手当」や「賞与」が残業代の支払いを含んでいるといういわゆる「固定残業代」が採用されていました。そのため,「営業手当」,「賞与」以外に別途残業代の支払いがなされていませんでした。
解決への流れ
訴訟を起こした上で,タイムカードと実際の労働時間(残業時間)が異なるため,メールの送受信履歴や会社の入退館履歴により,実際の労働時間を明らかにしました。また,本来,残業代とは全く異なる性質の「賞与」に残業代が含まれていることの異常性を訴訟の中で強調しました。その結果,200万円以上の解決金を受け取る旨の和解が成立し,その後,無事に支払われました。
実際には残業をしていても,定時でタイムカードを切らされているという事案は,珍しくありません。そのような場合は,本件のように,依頼者様のメールの送受信履歴を検討したり,また,勤務先のビルの管理会社に照会をかけて,ビルの入退館履歴を取り寄せるなどして,タイムカード記載の勤務時間が事実と異なることを証明していきます。毎日の労働時間の特定が完璧にできなくとも,「少なくとも平均して◯時までは残業していた」という認定を裁判所がしてくれることはあるので,残業の証拠が完璧に揃っていなくても諦める必要はありません。また,この事案も,「手当」を残業代扱いにするという,「固定残業代」を導入している会社の事案でした。本件では,「賞与」まで残業代扱いしていましたが,賞与と残業代が異なる性質のものであることは明白でしたので,この点を強調して,依頼者様に有利な主張を組み立てることができました。加えて,会社側は,依頼者様が外回りの営業職であったため,「事業場外みなし労働制」が適用されるとも主張しました。この「事業場外みなし労働制」は,「労働時間の算定がし難い」労働者について,一定の労働時間を働いたとみなす制度です。しかし,今日のように,携帯電話やタブレットが普及した世の中では,外回りの営業職だからといって,「労働時間が算定し難い」とは簡単には言えず,「事業場外みなし労働制」の適用は簡単にはできません。本件でも,依頼者様は,外回りといっても,いわゆる「直行直帰」になることは稀であったため,「事業場外みなし労働制」の適用はできないと考えられる事案でした。