この事例の依頼主
30代 女性
相談前の状況
夫が自殺しました。夫の遺品のなかに日記があり「工場長に就任したが生産ラインがトラブル続きで目標の達成が困難。」、「そもそも生産計画自体が達成不可能。」、「毎日12時過ぎないと帰れない。土日も出勤している。」との記載があることに気づきました。夫は名目上会社の取締役になっていますが、小規模ワンマン企業なので肩書は名目的なものです。労災申請を考えたのですが、私の手元には夫の手帳しかなく、どのような書類を用意すればいいのかもよくわかりません。また夫は肩書上は会社役員なので労災申請は難しいのでしょうか。それから、夫の死の原因を作り出したのは会社です。会社に責任を取ってもらうためには裁判を起こす必要があるのでしょうか。
解決への流れ
弁護士に依頼したところ、裁判官と一緒に職場に出向いて夫の出退勤記録、職場のパソコン、サーバー内の資料、入退館記録などを入手してくれました。それをもとに弁護士が意見書を作成してくれました。夫の日常生活等、私の知っている事実や訴えたいことも陳述書にまとめてくれました。労災の申請書も書き方がよく分からなかったのですが、私と一緒に書いてくれました。意見書、労災申請書等の労働基準監督署への郵送や、その後の労働基準監督署とのやりとりも弁護士がすべて行ってくれました。半年ほどして労災の支給を行う旨の通知が自宅に届きました。会社に対しても弁護士から損害賠償請求の通知を出してもらいました。すでに労災認定がされていたこともあり、会社としても責任を認めるとの回答があり、賠償額についての交渉に入りました。最終的には一定額で折れ合うことにし、裁判まではせずに終わりました。
労災の可能性が高い事案です。早めに労災事件に対応できる弁護士に相談し、必要な資料を証拠保全手続を用いて確保する必要があります。とくに、パソコンは他の従業員が使用するために初期化されてしまったり、リース期間の終了により処分されてしまうこともありますし、サーバー上のデータも3か月程度経過すると消去してしまう企業もあるため早期の証拠収集が必要です。また、取締役であっても業務の実態によっては労災申請できる可能性もあります。他の社員と同じ仕事を担当していたのであれば実質的には会社経営者ではなく労働者であるといえるので、その旨立証できるだけの資料を集めることが必要です。会社に対する損害賠償請求は、今回のように交渉で終わることもあれば、訴訟に発展することもあります。経験上は訴訟になることの方が多いように思います。会社に対して今後の再発防止策の検討を求めることも考えられます。