この事例の依頼主
70代 男性
A(依頼者)の弟の相続。相続人は10名。問題は極めて複雑。A(70代)は5人兄弟姉妹として生まれ、育ち、それぞれ独立し、皆な70代になった。実の父母は同じである。ところが、実父、実母は昭和初期であるが、お互いに妻、夫がおり、不貞関係のまま、生活を共にし、5人の子どもを産み、育て上げた。当時のことなので、実の子どもではあるが、それぞれ、自分の兄弟の子どもとして届けられ、戸籍上は親子、兄弟姉妹にはなっていない。その後、父母は正式に結婚し、子どもらを、父の養子、母の養子、父母の養子として届け、現実には今まで通り、子ども5人を養育し、教育してきた。それから50年以上経ったが、兄弟姉妹としては普通の仲の良い兄弟姉妹であった。戸籍上は、それぞれ戸籍上の兄弟、姉妹はあったが(実際はいとこになる)、その兄弟姉妹とは一線を画していた。現実には、これらの関係は、古い親戚は知っていた。今回、一番下の弟(三男)が死亡し、相続が発生した。弟は結婚していたが妻はすでに死亡しており、子どもはいなかった。従って、相続人は兄弟姉妹及びその代襲相続人であった。資産は多くはなかったが、残された4人の兄弟姉妹は、何とか、実の兄弟姉妹である4人でこの問題を処理し、兄弟姉妹の結束を強めたいと願っていた。しかし、戸籍上の兄弟姉妹(すべて死亡)の子どもが相続人としており(代襲相続)、相続人数は、4人のほか、6人もいた。4人が面識のある者はほとんどいなかった。6人からしても4人は遠い存在か全く知らない者であった。Aほか3人の兄弟姉妹の方々がどうしたらよいか相談に見えた。
まず、親子関係(実の親かどうか)も認定しづらく、実の兄弟姉妹関係も話だけで確認できない。形式的には、養子関係によって相続人とはなるが、相続としては戸籍上の実子の子どもらの方が多く、正規な手続きをすると、4人だけで弟の資産を分割するということは難しい。4人の本音は、実の兄弟以外の人間にこの問題に介入してもらいたくないというものである。戸籍上の親との親子関係不存在確認、兄弟姉妹関係の確認などは、そもそも関係者が高齢でその親は相当前に亡くなっていることから、証明は困難であることがわかった。それで、話し合いでまとめるしかないこととなった。はじめて今回の問題を知った関係者にどう説明するか。また、その中には相互に存在すら知らない者も2名いた。今回の事実と4人の希望を丁寧にわかりやすくお願いする手紙を出し、その後、個別に面談して、当初の遺産分割協議書案を理解してもらい調印する。そのように決め、実行した。しかし、わかりやすくと言っても、そもそもわかりにくい問題であるので、どのように丁寧に書いても理解してもらえないのではないかと懸念していた。懸念通り、面識のなかった2名からは、突然の手紙で真偽を諮りかねている、こちらも弁護士を付けた方が良いかなどという返答をいただいた。他の4人については、話しあいにより事情を理解してもらった。あとの2名については、その後、丁寧な手紙を出し、また、電話でも話した上、1名と面談することとなった。手紙には、いずれも70代になる兄弟姉妹のこれまでの生活歴、仕事、実の父母との生活状況、実の兄弟として現在も仲良くつきあっていることなど、4人の人となりを中心に述べ、決して変な問題でないことなどを丁寧に書いた。そして、面談をしたが、その時には、すでにこの方やその姉の方も理解されており、こちらの申し入れを受け止めてもらった。このようにして、遺産分割協議書を完成させ、4人の希望通りに弟の相続問題を解決することができた。
相続問題は、親族間の争いが先鋭化した段階で受任する例が多いものです。事件が解決しても、争いそのものが終了することは少なく、相互に感情的な対立を持ち越すものです。しかし、時に、相続問題の中で、人間の情感の素晴らしさを知ることもあります。今回の問題は、それぞれに自らの立ち位置を理解され、争いなどせず、人間関係を積極的に理解する姿勢を見せてもらいました。その結果、良い解決に結びつけられた。このような事は少ないですが、こういう人間の素晴らしさを知ることもあるという事案でした。