この事例の依頼主
女性
ご相談者は、ご主人が亡くなった後、ご主人名義の自宅に独り暮らしをされておられました。自宅には、ご主人ともども何十年もお住まいになっておられましたが、あるとき、自宅の敷地のごく一部が他人名義のままとなっていることが判明いたしました。ご相談者は、このままではご自身の相続のときに子供たちに迷惑をかけることになるし、かといって自宅を売却することもできないとお悩みになり、この他人名義の部分を自分の名義にすることができないかとご相談にお越しになりました。
お話をお聞きすると、どうもご主人が自宅を購入される際、敷地の一部が他人名義のままであったことを(不動産業者が)見逃して、そのままの状態で何十年もお住まいになっておられたようでした。他人名義の土地とはいえ、自分の土地であると思って何十年も使っておられた(占有しておられた)のですから、対象の土地の名義人である方に対して裁判(訴訟)を提起し、裁判手続の中で民法の時効取得を主張することによって所有権を取得できる可能性は高いと思われました。ところが、登記簿を見ますと、この他人名義の土地の所有者は、かなり昔にお亡くなりになっている可能性が高く、何代にもわたって相続が発生している可能性が高いと思われました。対象の土地の名義人の相続関係を調査したところ、かなり調査にが難航いたしましたが、最終的に相続が4~5代にわたっており、現在の相続人が何と50名ぐらいになっていることが判明いたしました。そこで、これらの相続人の方々に対し、事情を詳しく説明したお手紙を差し上げたうえで、裁判を起こすことになるが、ご異存がなければ登記名義の変更にご協力を戴きたいとお願いいたしました。結局、対象土地の(亡くなられた)名義人の相続人の方々のどなたからもご異存は出ず、無事に時効取得に基づく所有権の移転登記を命ずる判決が出て、ご相談者の自宅の敷地の所有権を確保することができました。
この案件は、不動産の登記名義をめぐるものですが、多数の相続人である相手方を確定することに非常に手間がかかった事案であり、相続問題の一種であるといえるでしょう。とりわけ地方都市によく見られる案件です。相続関係の調査は、丁寧に戸籍をたどって行けばよいのですが、相続が何代にもわたると、相続人を確定するため慎重に調査・検討を行う必要があります。この案件では、50名余の全ての相続人の方の現住所が判明したのでよかったのですが、これだけの人数となると、住所が分からない方や外国に行ってしまったまま帰国されていない方もいらっしゃることがあって、必ずしも全て容易に解決できるわけではありません。いずれにしろ、相続が絡む案件については、ご自身で調査するのに限界がある場合がありますので、弁護士にご相談になられるべきです。かりに、遺産の中に不動産が含まれていることで、最終的に司法書士さんの手助けが必要な案件であっても、まず弁護士の相談により、案件の中身を整理したうえで、解決までの手順をきちんと示してもらうことが大切です。