この事例の依頼主
40代 女性
駐車場内で自動車のフロントバンパに右下腿(膝のやや下あたり)をぶつけられた歩行者からのご相談です。相談者は、事故直後から右下腿について強い傷みや強い麻痺を感じており、事故直後から医療機関にて治療を開始しました。ところが、相手方は、自動車が相談者の右下腿に衝突したのではない、自動車が停止した後、相談者が自動車のフロントバンパに右下腿をぶつけてきたのだ、と主張し、治療費の支払いを拒絶しました。相談者は、とても困惑し、悔しい思いをされておりましたところ、ご自身の力では対応できないということで、ご依頼いただくことになりました。
【訴訟に至るまでの経緯】当職受任後も、相手方は治療費の支払いを拒絶しました。そこで、やむを得ず、依頼者は、しばらくの間自費で治療しました。症状固定後、立て替えた治療費、慰謝料は自賠責保険から被害者請求をして回収しました。依頼者の右足は症状固定後も垂れ下がった状態(下垂足)のままだったので、下垂足について後遺障害等級認定を受けるべく申立てをしました。認定結果は等級8級となり、依頼者は保険金819万円を受け取られました。当職は、後遺障害等級が8級に認定されたことを前提に裁判基準を用いて損害額を算定し、相手方に請求しました。しかしながら、相手方は、依頼者が相手方自動車のフロントバンパに右下腿をぶつけたに過ぎず、依頼者が怪我を負うはずがない、後遺障害が残るはずなどないと主張して、一切の損害賠償を拒絶しました。そこで、当職は、適切なる損害賠償を求めて、訴訟提起をしました。【訴訟提起後の争点】裁判において以下の事柄が争点となりました。①相手方自動車のフロントバンパが依頼者の右下腿に衝突したのか、それとも依頼者が停止する相手方自動者のフロントバンパに対して自分の右下腿をぶつけたのか。②依頼者の右下垂の原因はどのようなものか→カルテには、腓骨神経損傷の疑い、セパレート症候群の疑い、と記載されており、確定的な診断がされているわけではなかった→腓骨神経の支配分野に足関節の底屈運動は含まれておらず、腓骨神経損傷だけでは依頼者の下垂足の原因を全て説明できる状況ではなかった【争点①に対する当職が行った主な主張・立証活動】・刑事記録において、相手方自動車が進んだ点、相手方自動車が進んだ結果、相手方自動車のフロントバンパが依頼者の右下腿に衝突した旨が記載されていることを指摘。・カルテに基づき、本件事故直後において右下腿外側に大きく腫れが存在したことを主張。・本件事故直後から依頼者が通院を開始したこと、その後も通院を継続したことを指摘。・依頼者の尋問を実施し、相手方車両のフロントバンパが右下腿に衝突したことを説明してもらう。【争点②に対して当職が行った主張・立証活動】・自賠責保険が右下垂足が本件事故により生じた後遺障害である旨認定したことを指摘。・カルテに基づき、本件事故直後に右下腿に大きな腫れが存在した旨を主張。・以下の点、調査嘱託に基づき医療照会を実施(腓骨神経損傷で底屈運動ができなくなるか、セパレート症候群によって脛骨神経まで損傷したと認められないか、その他底屈運動ができなくなった原因として考えられるものはあるか、など)・医学書に基づいて、神経の成り立ち、神経の果たす役割、神経損傷と回復の過程を説明・依頼者への尋問を実施し、本件事故直後から下垂足の状態である旨裁判官に説明してもらう。【訴訟の結果】裁判所は、相手方の自動車のバンパが依頼者の右下腿に衝突したこと、下垂足の一部が本件事故を原因とするものであることを認定し(底屈運動不可の原因は立証不十分)、下垂足が等級10級に相当する後遺障害であることを認定し、後遺障害について約2000万円の損害額を認定しました。約2000万円の損害額のうち約820万円は自賠責保険金として受け取っていますから、裁判所は相手方が依頼者に対して後遺障害に対する賠償損害金として残り1180万円を支払うという内容の和解案をし、この内容で和解が成立しました。
相手方が事故の発生自体を争ってきたこと、担当医が後遺障害の発生原因を特定しきれていなかったことから、難しい裁判ではありました。損害の発生は被害者に立証責任があるという民事訴訟法上のルールを前提にすると、場合によっては請求金額よりも大幅な減額もあり得たものと考えております(認容金額が200万円程度になる可能性があったことも否めないと考えております。)。後遺障害に関する損害額が2000万円であるものと認定された理由として最も大きい事情は、やはり自賠責保険において8級が認定されたことだと考えております。自賠責保険が8級を認定したという重みが依頼者の損害額の認定にとって非常に有利に作用したことは間違いないと思います。ただし、8級が認定された点だけで損害額2000万円の認定に至ったわけではありません。自賠責保険の認定理由において、依頼者の右足が下垂足に至った原因は具体的に明らかにされていませんでした。自賠責保険が認定において具体的に明らかにしなかった事柄をカルテ、意見書、医学文献などを用いてできるだけ明らかにした点も、後遺障害に関する損害額を2000万円とするとの認定につながったものと考えております。主張・立証段階においては、できる限りのことは全て尽くすという姿勢が重要であると考えております。