この事例の依頼主
50代 男性
相談者Xさんは,父の死後,相続人Yさんの1人から遺産は何もないと言われていました。しかし,Xさんは,Yさんのその言葉を疑っていました。というのもYさんは父の体調が悪くなってから父の病院への支払いを代わりに行うために通帳等を預かっていたことやその後から途端に羽振りがよくなるなどしたため,父の財産を父に無断で使い込んでいるのではないかと考えていたからです。父の生前にも何度も使い込みをしていないか確認していたそうですが,Yさんは否定していたとのことです。Xさんは調査をして真実を知りたいと考え,相談に来られました。
弁護士はまず,Xさんが把握していた父の預金口座の取引履歴を銀行から取得し,その他の銀行にも取引がないか,取引がある場合にはその全てについて開示するよう求めていきました。また,加入していた保険も調査すべく同様の手続をとりました。全ての銀行,保険会社から資料が揃い,検討をしてみるとある銀行から連日のように数十万円が引き出されていました。その引き出しがされていたのはATMを利用して引き出されており,父の自宅や病院の近くのATMではなく,Yさんの自宅や職場から近いATMで引き出されていました。引き出された預金の合計額は数千万円にもなりました。そこで,弁護士はYさんに手紙を送り数千万円のうち使い込みがされていなければXさんが相続で受け取ることができたはずの2分の1の金額を返還するように求めました。当初Yさんは使い込みの事実を否定していました。交渉は決裂したと判断し裁判へ移行します。裁判の中でYさんは主張をコロコロと変え,最後には使い込んだことを認めました。その結果,数千万円のうちの2分の1に近い金額をYさんがXさんに返還せよとの判決が確定し勝訴しました。
このような事案では,使い込みをした相続人が使い込みの事実を否定することが多いと個人的に感じています。当初は,認めなければ発覚しないと考えているのかもしれませんが,調査をすれば疑わしい引き出しがあることはすぐにわかってしまいます。被相続人に無断で預金を引き出すことは,引き出した時点で違法の評価を受けます。そのため,被相続人から同意書や委任状をもらっておかなければ,承諾を得て引き出したことは証明することができません。一方で,使い込みを疑われることが怖いのであれば使途やその金額がわかるように領収書などを保管しておくべきでしょう。このように使い込みの事実は意外と判明しやすいと思います。ただし,銀行の取引履歴は開示を求めた日から遡って10年分しか開示されないことが多いです。したがって,預金の使い込みを疑ったらすぐに弁護士に相談して動き出すことが重要になります。時間が経てば経つほど証拠は失われ,返還を求める側が不利になっていきます。