この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
Aさんの母が亡くなったため,母Bさんの相続でご相談にいらっしゃいました。Aさんの父Cさんは10年前になくなっており,母が先日亡くなったとのことでした。Aさんは自宅を建てて家族で住んでいましたが,その自宅が建っている土地が母名義の土地でした。母の相続について遺産分割協議を進めていましたが,他の相続人Dさんが土地の取得を希望していました。Aさんも当該土地の取得を希望していました。そうすると,AさんとDさんの意見をまとめると,当該土地を共有として遺産を分割することになってしまい,AさんはDさんの所有する土地上に自宅を建てているため,土地使用代を請求されてしまうおそれがありました。そこで,Aさんは,当該土地を単独でAさん所有のものとするために弁護士へ依頼しました。
弁護士は,まず,Dさんと話し合いを行いましたが,AさんとDさんの兄弟仲が悪く,DさんはAさんの希望に合意することはないと話されました。そこで,遺産分割調停を申し立てて,裁判所を関与させながら話し合いを進めました。 しかし,Dさんは一切,話し合いに応じることなく,当該土地を譲る気はないと一点張りでした。話し合いでは解決は困難と考え,調停手続を終了し,遺産分割の審判手続へと移行しました。審判では,Aさんが母Bさんから承諾を得て当該土地の上に自宅を建てていたこと,母Bさんに土地使用代を支払ったことはないこと,自宅を建てて既に20年が経過していること,現物分割をすれば土地の価値が著しく低下してしまうこと,どのような分け方をしてもAさんの自宅がDさんの土地上にまたぐ格好となりAさんとDさんが将来に土地の使用方法などをめぐって争いになる可能性が高いことなどの事実を主張し代償分割すべきことを主張しました。裁判所は,当方の主張を採用し,AさんがDさんに,Dさんが法定相続分で取得できるであろう土地の持ち分に相応する代金を支払うことと引き換えに,Aさんが土地を単独で取得する旨の審判を下しました。Aさんは,その審判に従いDさんに裁判所で決定された金額を支払い,登記名義を母BさんからAさんへと変更することができました。
不動産の遺産分割において,誰が(AさんかDさんか),どの不動産を(本件では土地),どのように取得するのか(単独所有か共有か)について,相続人間で合意ができない場合には,現物分割によって遺産が分割されるのが原則です。詳細を省き簡単にいえば,相続人が2人おり,2分の1ずつの法定相続分であったとすると,土地を2つに切り分け,それぞれを1つの土地としてしまい,それぞれが単独で所有者となる分け方です。そうなると,土地の価値は下がることが想定されます。また,Aさんの自宅はDさんが所有する土地の上に建てられていることから,不仲のAさんとDさんは当該土地をかすがいとして関係性が継続してしまいます。このような状況では,またDさんとAさんの間で,当該土地の使用方法を巡って争いが生じてしまうことは目に見えています。そこで,AさんがDさんに法定相続分にしたがって遺産を分割すればDさんが取得できたであろう価値を金銭で支払うことによって,Dさんの不利益を回避しつつ,土地についてAさんの単独取得を認めるという代償分割という分け方が例外的に認められています。審判手続によって代償分割で遺産を分けることが認められたため,AさんはDさんに金銭を支払い,Aさん単独の所有とすることができました。そのため,Aさんは自身が所有する土地上に自宅を建てていることとなり,遺産分割の関係では将来,Dさんと紛争の関係になることはなくなりました。