この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
問題社員を抱えている中小企業からの相談です。依頼者(当社)は、ウェブ系のデザイン会社であり、問題社員はベテランのデザイナーです。当該問題社員は、業務上の指示を聞かない、勤務中に業務に関係のないアダルトサイトにアクセスするといった問題行動の他に、外部からの通報により他社のキャラクターやデザインを継続的に盗用していたのではないか、という疑惑が浮上し、対処方法を相談されました。
まず、外部からの通報について、問題社員に確認し、問題社員がデザインが酷似していることを自認したため、当職のアドバイスのもと始末書を提出させ、当社から注意改善指導書を交付し、貴殿から顛末書の提出を受けました。その後も、当社において調査をすすめたところ、他社の作品のトレース、データ流用が10件以上ありました。そこで、問題社員の弁明の機会を与え、これらを指摘したところ、問題社員は、形が異なる、別の作品であるなどの弁明をしましたが、客観的にみて、形やデザインは酷似し、また、重ね合わせたときに完全一致する作品もあること、また、問題社員の前職時代に当該他社勤務の経歴があり、データを保有していることを自認したことから、当社としては、デザインが酷似し、参考にしただけとはいえず、トレースの範囲すら超え、データの流用であり、著作権侵害であり就業規則の懲戒事由に該当すると判断しました。そして、当社はデザインを主たる業務とする会社であるところ、他社のデザインをトレースしたり、ましてや他社のデータを流用したりすることは、それ自体著作権法等の法令に違反し、また、当社の信用を棄損し、事業継続自体を危うくし、業務に重大な支障を生じさせるものと判断し、また、相談時に指摘されていた問題行動と合わせて、普通解雇を選択し、自宅待機を命じていた問題社員に解雇通知書を送付し、解雇しました。
解雇を含む懲戒事案については、始末書で事実関係を自認させ、または証拠に基づいて事実を特定した後に、会社側で就業規則の懲戒事由の該当性や処分の相当性を考慮し、裁判や労働審判に耐えられる懲戒処分(懲戒解雇、普通解雇、降格、減給、戒告または懲戒処分ではない厳重注意処分)を選択することがポイントとなります。また、解雇通知書については、他社デザインの盗用、盗作等の当社が認定した事実関係を明示し、該当する解雇事由を列挙し、会社が当該処分(普通解雇)を選択するに至った理由を詳細に記載しました。これは、問題社員が依頼する他の弁護士が当社の解雇通知書を読んだときに、解雇相当であり争う余地がないと判断してくれることを促すことを企図しています。また、労働法が定める手続きはすべて遵守し、給与や解雇予告手当も法律に従って即時に支払をすることもポイントとなります。なお、解雇通知後、当該問題社員からは労働審判申立や訴訟提起はされませんでした。