この事例の依頼主
40代 男性
相談前の状況
福岡県久留米市在住の40代会社員のFさん(男性)は,原動機付自転車を運転し,信号機による交通整理の行われている十字路交差点を青信号に従って直進していたところ,同交差点を右折した普通乗用自動車に衝突され,左肩鎖関節脱臼等の傷害を負い,治療を継続しましたが,左鎖骨の変形障害を残しました。
解決への流れ
本件事案における主な争点は,後遺障害逸失利益でした。後遺障害逸失利益について,加害者側は,「(Fさんの残存症状より)労働能力喪失期間は8年とすべき」旨主張しました。確かに,Fさんの後遺障害は左鎖骨の変形障害に留まり,左肩の関節可動域制限は認められず,派生的に生じるものである左肩の痛みについては,経年により緩和する可能性があり,労働能力に影響を与えるものといい難い側面もありました。そのため,本件事案では訴訟手続によると示談交渉よりも賠償金が下がる可能性があり,また,Fさんも示談による解決を希望したことから,「Fさんの仕事が肉体的労働であることを考慮すれば,少なくとも,労働能力喪失率は14%,労働能力喪失期間は10年間と認めるのが相当である」として,加害者側と粘り強く交渉を継続しました。以上より,加害者側が,当事務所の主張を認める形で,Fさんに対し,既払金のほか約413万円を支払うとの内容で示談が成立し,Fさんに満足いただける結果となりました。
鎖骨の変形障害は,後遺障害該当性が争いとなることは殆どなく,その障害が残存したことによりどの程度労働能力に影響が生じるのかが争われる例が多いと思われます。そして,後遺障害による逸失利益を認定する上での前提となる労働能力喪失率は,自賠責保険の取扱いに拘束されるものではなく,後遺障害の内容と程度,被害者の年齢,性別,職種,転職の必要性,事故前後の稼働状況などを総合考慮し,当該後遺障害により労働能力がどの程度喪失されるのかを具体的に検討してなされるべきものです。そのため,本件のように,痛みが派生的に生じるもので,可動域制限がない事案においては,痛みが経年により軽減することから,労働能力喪失率については,10%程度とされる例もあり,訴訟手続きにより,かえって賠償金が下がることもあり得ます。以上のとおり,紛争解決の手段として,必ずしも訴訟手続が最善であるとは限りませんので,事案に即した適切な解決ができるよう,弁護士に相談して頂きたいと思います。