この事例の依頼主
60代
相談前の状況
依頼者は、被相続人である父親とは、長い間離れて暮らしていた。父親の身の回りの世話は、依頼者の兄が主に行っており、預金通帳などの財産も、兄が事実上管理をしていた。父親の死亡後、兄から、「これにサインしてくれ」と、遺産分割協議書案が送られてきた。依頼者は、生前に父親からきいていた話や、父親の職歴などに照らして、遺産の総額が少なすぎるのではないかと考え、弁護士に依頼することとした。
解決への流れ
当職が父親の預金口座について、過去約10年間にわたって取引履歴を調査したところ、ATMから複数回にわたって数千万円が引き出されていた。引き出したATMは父親の自宅からは遠く離れている場所で、兄の自宅や職場近くが大半を占めていた。そもそも父親は、自力でATMの操作をすることができず、亡くなる前数年間はほとんど外出もしていなかった。このことから、兄による父親の財産の使い込みの疑惑が浮上した。もっとも、依頼者の意向により、訴訟や刑事告訴等によって兄の責任を追及することまでは希望せず、最終的には兄との交渉により、使い込まれた金額についてある程度考慮した内容での遺産分割協議が成立した。
同居の親族が、高齢者の預貯金を私的に流用するということは、さほど珍しくない。これらは、場合によっては民事上の不法行為に該当し、刑事上も横領罪等に該当する可能性がある行為であるが、当事者には自覚がないことも少なくない。このような、いわゆる「使い込み」行為があった場合、後の相続手続きにおいて深刻な紛争につながる可能性がある。このような事案については、まずは相続財産について徹底的な調査を行い、財産(特に現金・預金)の流れを丁寧に追うことが重要であり、それは後の裁判手続を見据えた証拠収集の意味合いを有する。本件のような事案では、依頼者としては、信用していた兄弟が親の財産を使い込んでいたと知り、ショックを受けて兄弟に対する不信感や憤りなどの激しい負の感情を抱くことになる。そのような事案を、当事者間の話し合いで円満に解決することは難しい。専門家に依頼することで、客観的証拠に立脚した冷静な話し合いや、裁判等の適切な手続の選択を実施し、粛々と手続を進めていく必要性が特に大きい事例であると言える。