この事例の依頼主
40代 女性
相談前の状況
ご相談される前日の夜にデリバリーヘルス店を利用した際に盗撮行為を行い,その場にて女性従業員に気付かれ,すぐさま店に連絡をされた。その後,ホテルへ駆けつけた店の責任者に運転免許証を携帯電話の写真に収められた上,慰謝料の相場を調べて明日必ず連絡してくるように伝えられ解放された。翌日になり,店の責任者へ電話しなければならないが,昨晩の店の責任者が高圧的な態度であったため,連絡するのが怖く,連絡できないでいたところ,店からと思われる電話が非通知なども含め何度も架かってくる状態となってしまった。もはや相談者自身では対応することは困難と思い,弁護士へ相談されるに至る。
解決への流れ
ご相談日当日に受任し,同日中に弁護士よりデリバリーヘルス店の責任者へ電話連絡を入れ,交渉を開始した。まずは,①依頼者より当職が依頼を受けたため,依頼者本人へ連絡しないように釘を差し,②女性と店に対し解決金の金額及びその他の条件を提示,③もし和解の意向があるのであれば女性従業員,店及び依頼者の三者間で合意書を締結する旨を伝え,検討するように促し当日の交渉を終える。数日後,店の責任者より弁護士へ連絡が入り,女性との関係では増額を希望してきたため,当日中に依頼者へ連絡・打ち合わせを行い,依頼者も女性の提示金額に納得されるとのことであったため,同日中に店の責任者及び女性従業員へ連絡を取った上,数日後には示談書を取り交わすことに成功した。
1 各都道府県が定める迷惑防止条例の「盗撮」の定義は各々であるため,デリバリーヘルス店にて行われた盗撮行為が迷惑防止条例に反するかは,当該行為が行われた場所がどの都道府県に属するのかにより,刑事事件にまで発展する可能性があるのか,あくまでも民事事件にとどまるのか大きく異なります。しかし,盗撮に当たらない場合であっても店側から「盗撮であるとして警察へ通報する,通報されたくなければ示談金を支払え」と詰め寄られることも珍しくなく,本件においても,迷惑防止条例に反する行為でないにもかかわらず,交渉時には責任者より「犯罪行為だ,警察へ通報する。」等と誤った認識の下,高圧的な態度を取られました。2 他方,迷惑防止条例上の盗撮に該当しないからといって,民事上の不法行為に該当しないというものではなく,性行為又はそれに準ずる行為を無断で撮影する行為自体は,民法上の不法行為責任(民法709条)に該当する可能性はあります。また,場合によっては,女性従業員の精神的損害に対する慰謝料の支払いにとどまらず,盗撮行為に起因して女性従業員が休業した際の損害の補填(逸失利益)及び女性従業員が退職してしまったことにより生じる店の売上が減少したこと(逸失利益)を理由とする損害賠償請求を主張されることも多々あり,何百万円という多額の請求を受けることも珍しくありません。そのため,適切な損害額を見極める必要があります。3 また,和解する際には適切な書面を交わし(客観的な資料を残すことは重要です),終局的に紛争を解決する必要があるところ,店側は同様のトラブルに慣れていることもあり書面の雛形を用意していることもありますが,中には再度の慰謝料請求がなされる虞のあるもの,被害者である女性従業員の署名等を欠くもの等が散見されますので,ご自身で和解される際には十分に注意される必要があります。にもかかわらず,盗撮が発覚してしまったことに対する焦り,警察沙汰や家族・職場への発覚の不安,高圧的な態度を取る店との和解交渉からの解放などを理由に,何ら書面を交わすことなく多額の金銭を支払っている場合や不適切な内容の書面を交わしている場合など,相談者の焦り・不安に応じて店側に付け込まれていることも多いです。4 したがって,店側との和解交渉においては,適切な知識,相手方の交渉ペースに流されないこと及び適切な和解手続きを踏まえることが必要となりますので,まずは問題が生じた時点で早期にご相談下さい。