この事例の依頼主
30代
2歳の幼児を抱えた専業主婦の女性から「突然夫に家出され、生活費がもらえなくなった」という訴えを受けて、離婚と婚姻費用分担の調停をお手伝いしました。その女性の夫には結婚前に取得した投資用賃貸住宅があり、その賃料収入と大企業のサラリーマンとしての給与があり収入面では恵まれていましたが、結婚生活による制約を嫌がって妻と子供を捨てて家を出たものでした。
依頼者の女性は、「2歳の子どものためにも、とにかく絶対に離婚はしたくない」というのが希望でした。その希望に従い、夫の離婚の求めには応じず離婚調停はすぐに不成立となりました。一方女性が夫に求めた婚姻費用分担調停は、夫が勤務先から受け取っている給与に加えて、さらに結婚前に取得した賃貸住宅からの賃料収入を夫の収入に含めて婚姻費用を計算するのかどうかが焦点となりました。このような場合、夫が結婚前に自力で取得した賃貸住宅からの賃料は、一般に夫婦の協力で得られた収入とは評価できないことから、女性が夫から受け取る婚姻費用にカウントされないのが原則です。しかし本件では夫が賃料収入からファミリーカーを買っていたことを指摘し、賃料は夫婦生活及び家族の維持に欠かせない収入であったことを主張立証することで、審判では、賃料収入も加算して夫の収入を算定し、多額の婚姻費用を受け取ることを認めてもらいました。毎月まとまった額の婚姻費用が入るようになり、女性は一息つくことができました。これに対して婚姻費用の金額が高く決まったことから、これを払わないで済むようにしたいと感じた夫は、すぐさま離婚裁判を提起してきました。しかし女性と依頼者の関係が破たんに至っていないことの主張、立証に努めた結果、裁判所が婚姻は破たんしていないとの心証をとってくれたようです。夫は自ら離婚訴訟を取り下げるに至り、「離婚したくない」という依頼者の希望はかないました。
婚姻関係の破たんを裏付ける事情として、別居期間の長さは重要な判断要素です。しかし一定の別居期間さえあれば離婚が可能であると考えるのは早計です。裁判では、別居に至った事情や幼い子供がいるかどうかなど、離婚を認めることが相当かどうか、夫婦間の信義や社会的妥当性の見地から問い直されるものです。本件は、夫の不誠実な家出や夫婦の間に幼い子供がいることなどを踏まえ、裁判所が夫に判決になったら離婚は認めないという心証を開示し、夫もやむなく取下げに応じたものと考えられました。